高齢者福祉施設の設計

8月も下旬に入り、全国的な大雨は沈静化しておりますが、酷暑でエアコンがないと生活出来ないような状況が続いております。今月も設計事務所へ定期的に訪問しており、設計士の方から伺ったお話をお伝えします。

高齢者福祉施設と自治体の関係

自治体が主導で高齢者福祉施設を建築する場合、補助金を出す自治体が高齢者福祉施設を運営する事業者を公募し、一般指名競争入札形式で事業者を選定します。その際には、設計事務所の指定までは行いません。
あくまで高齢者福祉施設を運営する事業者が採用する設計者(設計事務所)が設計業務を行うのですが、自治体としては、高齢者福祉施設の建築に問題のない設計者であること、という制約のみです。要は高齢者福祉施設を運営する事業者(医療社団法人、社会福祉法人、民間事業者など)が設計委託する設計士になるのですが、結果として地場の設計事務所を活用するケースが多いそうです。また、事業者が懇意にしている設計事務所も多くの高齢者福祉施設の設計を手掛ける事があります。

高齢者福祉施設の建材ではコスト廉価が深刻化

高齢者福祉施設を多く手掛ける設計士が言うには、高齢者福祉施設を運営する事業者では、高級志向や低コスト志向など色々な傾向がみられますが、大多数は低コスト志向にシフトしているそうです。全国展開している高齢者福祉施設の事業会社で多くの建築設計を手掛けている設計士は、国内景気がバブル期であった1990年代の傾向と近年の傾向は全く異なり、高齢者福祉施設自体も供給過多になっていていると言います。稼働率も90%前半まで低下しており、事業者間の競争が激化しているとの事です。その結果、採用する建材のコスト廉価要求も年々厳しくなり、内装材や床材のグレードもじわじわと安価な商材に変わりつつあるそうです。かつては一品物の内装建具もあったそうですが、既成品のフラッシュ戸の採用が多くなってきています。

高齢者福祉施設では床材が重要

高齢者福祉施設で使用される床材については、転倒時のダメージを軽減するクッションフロアが多く採用されていますが、クッションフロアの弾性についても深く検討されています。弾性が高いと転倒時には有効だけれども、車椅子の移動がしづらくなる。車椅子の車輪の転がり抵抗が増すので、あまり柔かなクッションフロアは採用したくない、という意見も聞かれます。また、食べ物が落ちたりした場合の汚れ落ちの良さ、清掃性も重要です。高齢者福祉施設で介護職にあたるスタッフは、ごく限られた人数で多くの入居者を介護しなければならず、清掃や不慮の作業に費やす時間を軽減出来るように、設計者も床材を熟考して選定しています。もちろん、事業者によっては標準仕様書も策定されていますが、設計士はそれだけに固執せず、より扱いやすく機能的な床材を求めています。また、近年はコロナ禍の影響もあり、抗菌仕様だけでなく、抗ウイルス仕様にも注目が集まっています。

高齢者福祉施設の設計における方向性

高齢者福祉施設には様々なタイプやグレードがあります。セコムと森ビルが共同出資した富裕層向け施設は、数億円の入居費用ながら入居まで2~3年待ち。その一方で、年金を使いながらこれまでの蓄えを切り崩して、より安価なファミリータイプの入居施設を探し続ける高齢者もいる。高齢者福祉施設の平均的な事業予算は15億円程度で、中には30億円程度の案件もあるが、それも減少傾向との事です。高齢者福祉施設の土地収用から躯体建築や内装材まで全ての費用を考えると、今後も建材のコスト廉価要求は更に高まっていくと見られます。将来の自分も含め、入居者にとって「本当に居心地の良い高齢者福祉施設とは何か」を考えさせられます。  

【担当:相馬 義輝】  

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