はじめに
公共工事の発注は、国民生活や地域経済の安定に直結する重要な行政活動です。
しかし、わが国の公共工事は長らく年度末に発注や施工が集中する「年度末駆け込み型」の傾向が強く、建設業界や地域経済、さらには施工品質にまでさまざまな影響を及ぼしてきました。
弊社の土木工事情報D-NETにおける土木工事の工事発注の公告においても工事の多い時期・少ない時期の波が顕著に表れています。
こうした状況を是正するため、国土交通省をはじめとする各発注機関は「施工時期の平準化」を進める政策を打ち出し、発注の通年化や労務環境の改善に取り組んでいます。
とはいえ、発注の平準化には制度的・構造的な制約が存在し、特に降雪の多い地域では施工可能期間が限定されることから、より一層の難しさを抱えています。
今回は、まず全国的に見た発注平準化の現状と課題を整理し、その後、豪雪地域に特有の課題と対応策を提示することで、今後の望ましい方向性を探って参ります。
公共工事発注の平準化の現状
発注集中の背景
公共工事の発注が年度末に集中する最大の要因は、我が国の予算制度にある。単年度予算主義のもと、年度内に予算を消化する必要があります。各自治体や発注機関は年度初めの準備が遅れや突発的な災害や事故などが起きると、最終的に年度末に業務を集中的に処理せざるを得なくなります。また、小規模自治体では技術職員が限られ、設計書作成や積算に時間を要することも発注の遅れを助長する遠因になります。
平準化への取り組み
こうした状況を改善するため、国交省は「施工時期の平準化ガイドライン」を策定し、以下の施策を推進しています。
- 発注見通しの早期提示と公表時期の前倒し
- ゼロ国債や債務負担行為の活用による早期発注
- 繰越制度の柔軟化による事業執行の平準化
- 週休2日制モデル工事の導入による施工環境改善
これらの取り組みにより年度前半の発注割合は以前より増加傾向にあり、一定の改善が認められます。
効果と限界
発注平準化は徐々に進展しているものの、依然として年度末集中の構造は解消し切れていません。特に地方自治体においては、発注前倒しを行うための技術者不足や事務処理能力の限界が顕著であり、平準化施策の実効性を十分に発揮できていない現状があります。

発注平準化における全国的な課題
制度的課題
単年度予算主義や財政規律の制約は、平準化の最大の障壁です。予算執行に柔軟性を持たせる仕組みは整備されつつありますが、依然として現場レベルでは「年度内完了」が強く意識され、年度末に工事を集中させる慣行が残存しています。
自治体の体制的課題
地方自治体では、特に小規模自治体において技術職員が不足し、設計・積算業務を外部に委託せざるを得ない場合が多い。その結果、発注準備が遅れることで工事が年度末に集中する構図が続いています。
建設業界の雇用環境の課題
発注が特定時期に集中すると、繁忙期と閑散期の差が激しくなり、労働者の雇用が不安定化します。また、技能労働者不足が深刻化する中、安定的な仕事量の確保は担い手確保にも直結する重要課題です。
地域経済への影響
公共工事の偏在は地域経済にも影響を与えます。繁忙期には資材や人件費が高騰し、逆に閑散期には地域建設企業の稼働が停滞し、雇用や経営基盤の弱体化を招いてしまいます。
豪雪地域における特有の課題
施工期間の制約
豪雪地域では冬季における屋外施工が困難となり、事実上、施工可能期間は春から秋に限定されます。これにより、全国的な年度末集中の傾向に加えて、雪解け後に一斉に工事が発注される二重の集中現象が生じます。
雇用環境への影響
施工可能な時期が限られることで、春先には多数の工事が同時並行的に進められます。これにより労働力や建設機械の需要が急増し、入札不調や労働力不足が発生しやすい状況を招きます。また、冬季には仕事が減少するため、技能者の通年雇用が難しくなり、雇用の不安定化を助長する要因になります。
地域経済への影響
地域建設業者は冬季に除雪業務を担う場合が多いですが、それでも工事稼働は大幅に減少するため、企業経営の安定性が損なわれます。これが建設産業の担い手確保を難しくする要因ともなっています。
(余談になりますが、作業者の減少が除雪作業にも影響を与えており、「ICT除雪」として除雪車が複数人で行るのオペレーションを1人で賄えるようにする技術推進もあります)
D-NETの集計においても北海道、東北は年度の始めに公告が出る傾向があります。年度末の補正予算での発注数が多いのは他の地方と同様です。

今後の対応策と方向性
設計・発注の前倒し
冬季には設計業務や積算業務を重点的に実施し、雪解け直後から速やかに着工できる体制を構築。また、債務負担行為やゼロ国債の活用により、年度初めからの発注を強化する必要があると考えられます。
冬季施工可能な工種の活用
建築工事や屋内作業、プレキャスト製品の工場製作など、冬季にも実施可能な業務を積極的に発注することで、通年の業務平準化を図ります。
効率的施工技術の導入
ICT施工やプレキャスト部材の活用によって工期短縮を実現し、限られた施工期間内に効率的な工事を行う体制を整備します。この点は国土交通省主導のi-Constructionの取り組みが推進されおり、今後は建機自動化の遠隔化、デジタルデータ共有による維持・管理などでの効率化が期待されます。
地域企業支援
除雪業務と建設業務を組み合わせた通年雇用モデルを推進し、地域建設業者が安定的に雇用を維持できる環境を整えます。若者や女性へのアプローチを通じて興味・関心を持って貰える取り組みも重要性を増しています。
また、自治体間連携や共同発注を通じ限られた人的資源を有効活用することが望ましいと思われます。
まとめ
公共工事の発注平準化は、建設業界の健全な維持と地域経済の安定に欠かせない課題です。
全国的には一定の改善が見られるものの、単年度予算制度や自治体の体制的制約、雇用環境の脆弱さなど、まだ多くの課題が残されています。特に豪雪地域では施工可能期間が短いため、発注の集中がさらに顕著となり、建設業者の経営や労働者の雇用に深刻な影響を及ぼしています。
今後は、設計・発注の前倒しや冬季施工可能工種の活用、ICTを活かした効率的な施工技術の導入、さらに地域特性に応じた通年雇用モデルの確立など、複数の施策を組み合わせていくことが必要です。
発注者と受注者が情報を共有し、地域に合った持続可能な工事発注体制を整えていくことが、公共工事の質を高め、建設産業の未来を支えていくことにつながると考えられます。
(片岡 優介)
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