「長野君、伊藤君ちょっと」と。クライアントの報告会を終え、帰社して直ぐに課長に呼ばれた。長野君とは、リーダー職で営業担当者で私の上司。私は調査担当者(40年前)。「さっきクライアントから電話があったけど、報告会なんかあった?!」どうも、課長の話では、クライアントからクレームの電話が入ったらしい。クレームの内容は、調査内容に不満を感じたとのこと。えっ!報告会は納得して頂いたのに。どうしてクレームが。長野リーダーも私も驚いた。そのクレーム、実は、クライアントの報告担当者ではなく、その担当者の上司(部長)からだった。
クライアントは、床材メーカー。調査目的は、クライアントと競合する企業の床材部門の販売実績を調査することだった。しかし、クライアントのクレームは、競合企業の床材部門全体を調査していないとのこと。しかし、競合企業全体を調査する指示は、長野リーダーから受けていない。営業担当の長野リーダーもクライアントの担当者と販売実績を調査する内容で契約をしていた。調査費用も、昔の話だが20万円位。全体を調査するとなれば100万円位はかかる。
どうもクライアントの担当者の上司は、その契約内容を知らなかったようだ。報告会にも参加しておらず、報告書だけを見て連絡があった。勿論、クライアントの担当者は、上司に目的と内容を説明したと思うが、上司が納得しなかった。本来なら全体を知りたかったのに、私達が、販売実績しか調査していないと思ったのだろう。
翌日クライアントに伺い、担当者と上司に、再度競合企業床材部門の販売実績の報告会を行った。前回と異なり緊張感が漂っている。手に汗をかいている。報告を終えた後に上司から質問が。「ところで、床材部門の組織や営業人員数はどのくらいですか」「床材部門の工場と体制は」「販売チャネルや工事体制の特色は」、など販売実績以外の質問。私としては、契約目的が違うので質問における調査はしていないので回答できない。下を向くだけである。
緊張が漂っているなか、営業担当の長野リーダーが、「今回の調査目的は販売実績を調査するだけで、質問の調査は今回していません」と回答したが、上司は納得しない。「販売実績を調べるにしても、周辺の情報は調査しておくのが必要ではないですか」。上司が言わんとしていることは分かる。しかし、その質問を調査するには、新たな時間を要する。費用も20万円ではできない。
私のなかでは、注文住宅を建てて、家具までセットしなければ家ではないと言われているように思えた。理不尽である。長野リーダーも、クライアントの担当者も下を向いているだけ。まるで調査した私一人が悪者になった気分だ。暫く沈黙が続いたが、私から、質問における回答を後日報告するとし、その場を終えた。

この様なケースは、調査業界によくある話である。販売実績を調査するだけでも、商品の種類別、用途別、需要先別、地域別、支店別など、範囲が広く深い。どの範囲まで調査をするのかを、事前に、営業担当者とクライアント、営業担当者と調査担当者、クライアント内でのコミュケーションをとっていなければ、クライアントが満足する調査は出来えない。更に言えることは、木ばかり見て森を見なければ、納得してもらえる調査は出来ない。床材メーカーの調査クレームから多くのことを学びました。