「日本は水が豊かな国である」——。
私たちは幼い頃からそう教わってきました。確かに、毎年のように襲来する大型台風や、バケツをひっくり返したような夏季のゲリラ豪雨、そして甚大な被害をもたらす洪水。これらを目の当たりにすれば日本が「水」に事欠く国だとは誰も思わないでしょう。
その実態は脆い均衡の上に成り立っています。夏にあれほど猛威を振るった水が、冬から春にかけては一転して姿を消し、各地で「渇水」の悲鳴が上がっているのです。
2026年2月現在、関東から九州にかけての太平洋側を中心に、12月〜1月の降水量が平年の4割以下(高知市ではわずか12%)という深刻な事態が続いています。これにより、各地のダムでは貯水率が急落し、普段は水底に沈んでいる「かつての風景」が姿を現しています。
「30年に一度」とも言われる記録的な少雨に見舞われており、各地のダムや河川で湖底や川底が露出する異例の事態となっています。
夏の豪雨や洪水が記憶に新しい一方で、冬から春にかけての極端な渇水は、まさに日本の水管理の難しさを浮き彫りにしています。今回は現在の渇水から見る日本の水管理と、問題を打開のための建設DXなども含め整理していきたいと思います。
(※当記事の情報は執筆時の2026年2月時の内容となります。取水制限や貯水率などの情報は各自治・機関などの公式の最新情報をご確認下さい)
湖底に沈んだ歴史が露出:主要ダムの現状
ダムの水位が低下し、かつてそこにあった村の跡や構造物が見える状況は、渇水の深刻さを物語る「バロメーター」となっています。
早明浦ダム(高知県):出現した「幻の役場」
「四国の水がめ」として知られる早明浦ダムでは、1月の降水量が過去30年でワースト2位を記録。水位の低下により、1970年代のダム完成時に沈んだ旧大川村役場の庁舎が再び姿を現しました。2月9日からは香川用水などで第一次取水制限が開始されており、2月20日からは第二次取水制限(徳島県19.4%カット、香川県30%カット)を実施しており、節水への協力を呼び掛けています。

出所:独立行政法人水資源機構 吉野川上流総合管理所HP
早明浦さめうらダム左岸展望台ライブカメラ映像2月20日より抜粋
湖面がかなり下がり、岸壁や岩肌が露出しているのがわかる。本来であれば潤沢な水資源を蓄えられているはずである。
津久井湖(神奈川県):30年ぶりの低水位と「沈下した遺構」
首都圏を支える城山ダム(津久井湖)では、貯水率が一時12%(2月中旬時点)まで低下。湖底からかつての八幡神社の跡や、数十年前に水没したとみられる車両(ワゴン車など)が露出しており、その異様な光景がSNS等でも大きな話題となっています。

出所:かながわの水がめ (神奈川県企業庁)県内の貯水状況より
宇連ダム(愛知県):貯水率4.0%の衝撃
東三河地方の命綱である宇連ダムでは、貯水率が4%台まで落ち込み、ダム底の岩肌が広範囲にわたって露出しました。農業用水や工業用水のカットが強化され、市民生活への緊張感が高まっています。
江川ダム(福岡県):再出現した「石垣の村」
九州でも少雨が深刻で、江川ダムではかつての集落の石垣や生活の跡が露出。1月の雨量は平年の約5分の1に留まっており、周辺自治体では減圧給水などの対策が始まっています。
「水が消えた」一級河川:安倍川の瀬切れ
ダムだけでなく、一級河川でも異常事態が起きています。静岡県を流れる安倍川では、雨不足により川の水が途切れる「瀬切れ」が発生。通常であれば豊かな水量を見せる河口付近でも、約700メートルにわたってカラカラに乾いた川底が露出し、白い堆積物が広がる光景が見られます。
「降っても貯まらない」地形的な理由と特性
日本は世界平均の約2倍の降水量がある「降雨大国」です。それなのに、なぜ水不足に悩まされるのでしょうか。
最大の理由は、日本の「険しすぎる地形」にあります。大陸の河川がゆるやかに数千キロを流れるのに対し、日本の川は山から海まで一気に駆け下りる「滝」のようなものです。

日本と世界の主要な河川の距離と購買を比較すると日本の河川は短く高低差も激しいことがよくわかる。
夏に大雨が降っても、その大半は利用される間もなく海へと流出します。洪水リスクを回避するためにダムの放流を優先すれば、なおさら「資源としての水」を留めておくことは難しくなります。私たちは「降る水」には恵まれていても、「使える水」を保持する力は、地形的に極めて限定的なのです。
夏の洪水と冬の渇水、皮肉な二面性
この冬の渇水の背景には、夏季の極端な集中豪雨との「二極化」があります。
夏に発生する線状降水帯などの豪雨は、あまりに短時間に大量に降るため、治水(洪水防止)の観点からダムは水を放流せざるを得ません。
本来、日本の冬における「貯水池」の役割を果たすのはダムだけではなく、その後の冬に「天然のダム」となる「雪」です。しかし積雪が暖冬で不足すると、春先まで持たせるための水が確保できなくなります。
近年の温暖化に伴う「暖冬」がこのサイクルを破壊しています。
雪が降らない: 降水が雪ではなく「雨」として降り、すぐに海へ流れてしまう。
春の雪解け水が枯渇: 山に蓄えがないため、春先のダム貯水率が回復しない。
「水がありすぎて困る夏」と「水がなさすぎて困る冬」という、極めて不安定なバランスが現在の状態と言えるのではないでしょうか。
建設DXによる「攻めの水管理」の必要性
こうした危機に対し、前述の「i-Construction 2.0」や「デジタルツイン」の活用が急務となっています。
現在、国土交通省が推進している「流域治水」という考え方があります。これは、ダムだけでなく、田んぼや遊水地、都市の貯留施設など、流域全体で水をマネジメントする戦略です。
精密な需要予測とシミュレーション: 3次元地形データ(LPデータ)と、流域に設置された無数のIoTセンサーから得られるリアルタイムの降雨・水位データを融合。AIが「数時間後にどれだけの水がダムに流れ込むか」をミリ単位の精度で予測します。
降雨予測だけでなく、農業・工業・生活用水のリアルタイムな需要をAIで分析し、無駄な放流を減らすための活用。
●スマート点検
水位が低下している今こそ、普段は見えないダム堤体や取水設備の損傷を、ドローンや3Dスキャンで精密に点検し、将来の漏水リスクを防ぐ。
●「経験」から「データ」による放流判断
これまでは熟練の管理者の経験に頼っていた放流タイミングを、デジタル上でシミュレーション。
これにより、下流の洪水を防ぎつつ、限界ギリギリまで冬の渇水に備えた水を貯めておくという「攻めの運用」が可能になります。
まとめ
2月25日には全国的に雨天ではありましたが、まだ充足には遠い状況のようです。
以降も太平洋側では晴天が続く見込みであり、多くの地域で取水制限の強化が避けられない見通しです。湖底に現れた遺構は、私たちに「水は無限ではない」という事実を突きつけています。
インフラを「造る」時代から、デジタルで「賢く使う」時代へ。この渇水は、建設DXが単なる作業効率化を超え、国家の生存戦略に直結していることを改めて証明しています。
(担当:片岡 優介)
参照情報 (※当記事の情報は執筆時の2026年2月時の内容となります。取水制限や貯水率などの情報は各自治・機関などの公式の最新情報をご確認下さい) 国土交通省 川の防災情報:主要ダム貯水率データ 国土交通省 主要河川の勾配(国土交通省HPより抜粋) 国土交通省 日本の水資源の現況 国土交通省 流域治水の推進 吉野川水系水利用連絡協議会 発表資料 神奈川県「県内の貯水状況かながわの水がめ」
ダム工事や河川工事、またICT活用工事やBIM/CIM活用工事の情報・データはD-NETにお任せください。
建設マーケティングのプロフェッショナルが入札情報を建設・マーケティングの視点で整理した土木工事入札情報は、発注者詳細・ICT活用工事・工事内容など、工事に関わる情報はエクセルにすべて表示。貴社での内容確認作業の手間を大幅に軽減できます。