建設分野の調査依頼企業と言えば、窯業、化学、繊維、鉄鋼、設備機器、住宅、等の業態が多岐に渡り、約30年前の当時、それら企業との取引はあったが、ゼネコンとの取引は一切無く、そんな中1988年、取引先の紹介で、初めて大手ゼネコンから調査案件を相談された。大手ゼネコンからの調査案件だけに、本来は嬉しいはずだが、不安の方が大きかった事を思い出す。何故、不安になったか。当時、ゼネコンへ営業に行くと、“建設業界は、飲む・打つ・買う世界。マーケティングなんか必要ない”と断言されたからである。そんな考えのゼネコンから何の調査案件なのか。

大手ゼネコンからの調査案件とは、『ドーム球場の潜在需要』を調査できないかの相談。ドーム球場と言えば、1988年、日本で初めて株式会社東京ドームが竣工した屋根付き球場で、天井は空気膜構造方式(エアードーム)。こんな屋根付き球場が造れるんだと驚いたものである。ゼネコンは竹中工務店。建設費は約350億円。相談があった大手ゼネコンからすれば、これから増えると思われるドーム球場市場。指をくわえて見ている訳には行かない。そこで、ドーム球場の潜在需要を調査して欲しいと調査依頼。ゼネコンが変わったと思った一瞬である。
調査目的は、「100m/辺以上のスポーツ施設大空間が可能な地域を探す事」。調査方法は、全国の地域(市)毎に、公開情報の収集と電話調査を行い、その結果について分析を行う。どの様な情報を収集すれば良いのか。的外れの情報を収集したら、可能性のない地域を選ぶ事になる。責任重大である。この情報収集の範囲を決めるのに何度も打合せ。情報収集に矛盾があれば収集した情報の見直し。その度に、ゼネコン担当者に報告。最終電車の時間まで打合せした時もあった。
そんなやりとりで、最終的に決定した情報収集の項目とは、各地域(市)別に、①人口・世帯②保健体育費③スポーツ用品消費額④財政力⑤商店販売額⑥銀行貸出額を、朝日新聞出版の「民力」(現在は廃刊)から抽出。そして、その項目ごとに、成長率を1~5ポイントに定め、高い成長率の地域を選んだ。更に、スポーツ施設数や大型イベント開催数、降雪日数や降雨日数も判断材料に加えた。もう一つ加えたのは、その地域の市長が、与党か野党か。やはりゼネコンの発想と勉強させられた。

調査結果は、約15の地域に施工可能性があると判断。そこには、「大阪市」「札幌市」「福岡市」「名古屋市」「所沢市」も入っており、調査結果通りに建設されて有り難い。但し、それ以外の約10地域に施工可能性を有りと判断したが、まだその地域には建ってはいない(これから建つかも)。1990年初頭にバブルが崩壊したので、施工可能性があると判断した地域は、計画を断念したと思いたい。バブル崩壊後、ゼネコンの営業手法が変わった。「飲む・打つ・買う」の営業からドーム球場のような「工法・技術」の提案営業に変わった。東京オリンピック以降、建設業界は、更に新たな需要創造を求めて提案型営業が加速すると言いたい。